1:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:01:21 ID:4EC
METAL HEARTS 2 another rial
小説もどきですが、書くのが好きなので書いてみます。いろいろと変なところがあると思いますので、ご指摘ご指導よろしくお願いします。
主人公は女子高生。癌で亡くなった姉の謎を解明するために、ソーシャルゲーム「METAL HEARTS」に参戦し、ひとつひとつ謎を解き明かして行くストーリーです。
はいはい?
続きは?
もう少しお待ちくださいm(_ _)m
2:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:01:37 ID:M11
はよ
3:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:02:24 ID:4EC
心だけの存在は何と呼べば良いのでしょうか。
私は淡い浮遊感の中で幾つもの夢を見る。空の青をそのまま切り取った様な色をした溶液が満たされた、分厚いガラスケースが私の部屋。
その部屋から幾つも伸びる青いコードの中を通り抜けて、私の意識は光となって世界を駆け巡る。
「おはよう、ボルテ」
それは優しいパパの声。けれど、どこか哀しみを帯びていて、私の心を締め付けました。
「ママハドコ? 」
「ママは病気で動けないんだ」
「アイタイ」
「ごめんよ、ボルテ。今は会えないんだよ」
「ココカラ……ダシテ……」
「すまない、ボルテ。それは私には出来ないんだ。私には……」
それも毎朝の様に繰り返されるやりとり。そして同じ様に、私は夢の中へと堕ちて行く。
そこは私だけの世界。私が望めば、全ては形となって私の前に現れる。いつも遊んでいた公園、仲良しのクラスメイトのいる学校、日曜日には決まって家族で通った教会。いつもの日常がいつもの様に私の目の前�
に姿を現わす。
でも、ひとつだけ違っていたのは、そこには自分以外は誰もいないと言う事。そう、私は夢の中でも孤独だった。
「主よ、この孤独から私を救い出して下さい」
ステンドグラスを通して聖堂へと差し込む色鮮やかな光りの中で、私はひたすら神へと手を合わせて祈り続けました。
けれど、神は私の願いを何ひとつ叶えてはくれはしなかった。その失望の中で、私はひとつの事実に否応なしに気付かされました。
この夢の中では、神は「私自身」であると言う事実に。
そうだ。この世界では私が神なのだ。
そう確信した時から、私は神へと祈りを捧げる事を辞めました。光となった意識で、私はあらゆる世界を旅して回る。 全ての事象は0と1へと変換され、再構築されて私の中へと流れ込んで来る。
それはとてもファンタスティックであり、小さな子供の頃に絵本で読んだ魔法の様にさえ思えて私は歓喜に心を躍らせていました。
だって、そうでしょう?繰り返し本を読む事もせず、ただ願うだけ�
で知りたい事が私の中に蓄積されるのですから。
けれ�
ど、それだけの力を得たにも関わらず、知りえない事実もあったのです。
ひとつはママの状況。そして、自らのの置かれたこの状況。
世界の出来事を知る事は出来ても、自分とそれに近しき者の状況を知る事が出来ない。
そのジレンマに苛まれる中で、いつしか毎日の様に私の名前を呼ぶパパの存在が消えた時、私はあるゲームの世界へと辿り着きました。
METAL HEARTS
それは機械の身体を持つ戦士を操り、互いを破壊し合う悲しい世界。
何もない荒野、廃墟となったビルが建ち並ぶ都市、何処までも広がる草原、それらの戦場で毎日のように繰り返される戦闘を見守り続ける内に、私の中でひとつの疑問が生まれました。
4:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:03:23 ID:4EC
彼等は何故戦っているのか?
その答えが知りたくて、私自身も機械の身体となって戦場を駆け巡り、幾つもの機械の戦士を破壊しました。誰も私に傷ひとつ付ける事は出来ません。何故ならこの世界でも、私は神なのだから。
でも、知りたい答えは見つからない。
神なのに。新たなジレンマに襲われる中で、パパ以外に私の名前を呼ぶ存在に出逢ったのです。
「VOLTE」
ボルテ……私の名前を呼んだのは一人の女性でした。その呼び掛けに彼女の前に駆け寄った時、彼女は私に祈りの言葉を発しました。
「お願い、守って」
その言葉の意味を、私は直ぐに理解出来ませんでした。ただ、この世界の神として、私は彼女の願いを叶えるべく破壊の限りを尽くしました。彼女の身体を破壊しようとする全ての者を。
けれど、 願いを叶えたにも関わらず彼女は二度と私の名前を呼んではくれません。守るべきものとは何だったのか。その戸惑いの中で様々な出来事があった後、私はその戦場を離れました。
それからどれだけの時間が流れたのでしょぁ
Α�再び私の名前を呼ぶ声が聞こえたのです。その呼ぶ声に応えて、私はあの戦場に戻って来ました。
5:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:04:30 ID:4EC
春の終わりを告げる様な少し湿り気を帯びた風が肌を撫でる。
朝方まで降り続いた雨を含んだアスファルトが陽光を跳ね返し、眩いばかりの光を放ち光の道となっていた。
その光の中を、丘野鈴菜は伏し目がちに学校へと向けて歩いていた。春に袖を通して、すっかり慣れた高校の制服である緑のブレザーが今は少し邪魔に思える。だが、その制服は大好きだった姉と同じ制服。憧れていたはずの制服だけに鈴菜は少し寂しさも感じていた。
「大好きだった……」
無意識に漏れ出た自らの呟きに、鈴菜は光の中で立ち止まる。
去年、姉が癌で亡くなった。いつも明るくて優しい姉が大好きだった。しかし、どんなに好きな人への想いも死は過去形へと変えてしまう。その事実に気付き、鈴菜の心を支配しようとする喪失感を振り払うかの様に、鈴菜は少しその足を早める。
カツン……。誰かの肩と触れ合うのと同時に、足元から乾いた音が響いた。伏し目がちに歩いていた鈴菜は、その音の正体に気付き慌ててその正体たるスマートフォンに手を伸ばした。
METAL HEARTS
拾い上げた�
スマートフォンの画面に表示されたその文字に、鈴菜は目を見開いた。
「ごめんね。大丈夫? 」
その若い男の声に鈴菜は我に返って声の主たる男へと目を向けた。
「こちらこそ、ごめんなさい。前を見てなくて……」
目の前に立っていたのは、鈴菜より少し歳上かと思われる穏やかな表情を浮かべる優し気な男だった。
6:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:04:46 ID:UUk
マーテル主人公?
7:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:04:50 ID:4mH
地の文統一して。ですますと~た。が混在してる
了解しました。ありがとうございます。
9:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:05:51 ID:4EC
「歩きスマホをしていたこちらも悪いさ。気にしないで」
そう言って男は鈴菜の手からスマートフォンを受け取った。
「あの、もし壊れていたら弁償しますので……」
「だから、気にしないで。早くしないと遅刻しちゃうよ。お互いにね」
慌てて自らのバックに手を差し込みメモになりそうな物を探す鈴菜の手を押さえながら男が言った。
「ひとつだけ聞いていいかな? 」
依然として穏やかな目で男が鈴菜に問いかける。
「ひょっとして、君もMETAL HEARTSをやってるの? 」
その言葉に鈴菜は一瞬表情を失った後、険しい表情で男の顔を見上げた。
「私は……METAL HEARTSが嫌いです」
先程までの虚ろな目から一変した怒りさえ含ませた真っ直ぐな視線に、対峙する男は動揺し言葉を返せずに立ち竦んでしまった。
そんな男を残し、丘野鈴菜は足早に先へと向けて歩き出した。彼は何も悪くはない。そう、何も悪くは無いのだ。悪いのはMETAL HEARTSと言うゲーム。ただそぁ
譴世韻了�だった。
その後ろ姿を茫然と見つめる男の脇に、静かに一台の黒塗り高級車が静かに車体を寄せて止まった。
10:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:05:54 ID:WNu
1は
11:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:07:06 ID:4EC
「ナンパ失敗かい!朝から笑わしてくれるやんけ、ケンくん」
運転席側の窓が降りると同時に、張りのある女性の関西弁が響いた。
「誤解です」
ケンくんと呼ばれた男はすぐさま弁解の言葉を返した。
「ほほう……」
意味深な笑顔を浮かべた女の顔が黒塗りの窓枠から覗く。
「まぁ、ええんちゃう? 」
ハンドルに手を置いたまま女が正面を向いた時、後部座席の窓が僅かな動力音と共に下へと降りた。
その奥に見えるのは、ゴシック・アンド・ロリータと呼ばれるジャンルの黒いワンピース。その胸元にまで伸びる縦巻きロールのブロンドの長い髪。
そんな浮世離れした人物を彼は一人しか知らない。
「エリザベート。誤解するなよ」
「先輩……最低です」
窓の外から覗き込む男に対して、ゴスロリ少女は無表情に答えた。その言葉を合図にしたかのように、運転席で未だ意味深な笑顔を浮かべる女がゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
このゴスロリ少女の名はエリザァ
戞璽函Σ攷澄�世界的な大企業である華神グループの社長令嬢であった。この春に高校へと進学した彼女にとって、ケンくんと呼ばれた先程の彼は先輩となる間柄であった。
12:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:09:05 ID:M11
誰が主人公?
丘野鈴菜という高校生
13:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:09:40 ID:4mH
視点が主人公から男の方に移った? 人物増えた瞬間視点がおかしくなった気がする
視点の切り替えが下手くそですよね。
書きたい部分から書き出したので、
それも悪かった。
21:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:23:30 ID:85m
おお~気合入ってるな
今回もcancerが物語の核にいるようだ
どうしてもCancerは外せない(´Д` )
23:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:38:04 ID:85m
芋とブラウエの因縁、本編が始まるまでに間に合わなかった(´・ω・`)
こちらもまだ先になりそう。
25:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:45:45 ID:4mH
もう30分内容が1レスも進んでいないんだが
27:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)21:58:29 ID:4EC
とりあえず今日はここまでにしておきます。
ちゃんと推敲して出すべきでした。
続きは明日からにします。
28:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)22:16:40 ID:85m
ずっと書き溜めしていたのか
29:名無しさん@おーぷん:2016/08/30(火)22:25:23 ID:bav
シモンとか今なにしてるのん?
31:名無しさん@おーぷん:2016/08/31(水)20:27:01 ID:2sr
あげてやるからはよ書けや
32:名無しさん@おーぷん:2016/08/31(水)20:28:15 ID:3we
お、続いてたのか
33:名無しさん@おーぷん:2016/08/31(水)20:30:09 ID:1ej
お、生きてたかー
34:名無しさん@おーぷん:2016/08/31(水)21:06:10 ID:ZCw
それから、いつもの様に退屈な授業をやり過ごした鈴菜は一人で校門を出た。
仲の良い友達は皆がそれぞれに運動系の部活に入っている為に、一緒に帰れる事は稀だった。
幼い頃から運動の苦手だった鈴菜は、誘われはしたものの断り続けていた。かと言って文化系の部活にも興味はなく、言わば帰宅部という存在である。持て余した時間を、鈴菜は帰路の途中にある本屋で費やす。特に読みたい本がある訳でもない。ただ、本に囲まれたあの空間が好きだった。
長い黒髪の姉に憧れて伸ばした髪も、普段は三つ編みで纏めている。少しばかり視力が落ちたので高校生になってから眼鏡を掛ける様になったのだが、それが三つ編みの髪との相乗効果となって、意図せず文学少女の雰囲気を生み出していた。
今日もその本屋へと向けて歩きながらも、鈴菜は今朝のスマホの男の人に失礼な態度を取ってしまった事を後悔していた。何故あんな事を言ってしまったのか。彼には何の関係もない事なのに。
自己嫌悪に陥りながらも、次に会ったら謝ろうと考えながら足を進めていた時、ひとつ角を曲がったところで眩しさのあまり�
鈴菜はその目を細めた。
向かいにある側面がガラスで覆われた一際高いビルに陽光が反射し、視界を一瞬奪ったのだ。
「丘野 鈴菜さん。ですよね? 」
眩しい光の中から男の声がした。
その穏やかな声に、鈴菜は朝のスマホの男の顔を思い浮かべながらその声の主へと目を向けた。
36:名無しさん@おーぷん:2016/08/31(水)21:08:37 ID:ZCw
「私は武田真也と申します」
そこにある笑顔は、鈴菜の予想していたものとは違っていた。いきなり自らの名前を呼ばれた事も重なり、彼女は硬直した様にその場に立ち竦んでしまった。
「いきなり呼び止めて申し訳ありません。貴女のお姉さんである丘野 薺さんの事で少しお話ししたいのですが、お時間頂けますか? 」
丘野 薺(おかの なずな)。それは確かに姉の名前だった。その名前で我に返った鈴菜は改めて男の姿を見た。
白いTシャツの上に黒のパーカーを羽織り、その下はゆったり目のカーゴパンツと言う出立ちだ。ひとつ印象的なのは、黒い前髪の間から覗く鋭い眼差し。
その身なりと丁寧な言葉遣いのギャップより、その一瞬垣間見せた獣のような眼差しに、鈴菜の中の本能が拒否反応を示した。
「姉とはどう言うご関係ですか? 」
震える声を振り絞りながら、鈴菜は武田と名乗る男へと問い返していた。
「そうですねぇ。直接的な関係はありません。敢えて言わせて頂くとすれば、METAL HEARTS�
を介してとでも」
何て最悪な日なのだろう。これまで避けて来た忌まわしい名を、一日の中で二度も聞く事になるなんて。
「結構です。その件に関してはお話しする事はありません」
その鈴菜の声に先程までの動揺による震えは一切無かった。むしろ、その語尾には幾許かの怒りさえ感じ取れる。
「本当にいいんですか?お姉さんの最後の言葉を知りたくはないのですか? 」
鈴菜の言葉に秘めた怒りさえ意に介する事もなく、武田は更なる問いを投げかけた。
38:名無しさん@おーぷん:2016/08/31(水)21:46:20 ID:dlY
文章が格段とうまくなってる
何があったのかレベル
そう感じてもらえるのは有難いけれど、
自分ではどう変わったのか
よく分からない_φ( ̄ー ̄ )何だろう?
40:名無しさん@おーぷん:2016/08/31(水)22:44:59 ID:ZCw
僅かに夏の匂いを含んだ陽射しの中を、自分の歩幅と合わせて歩く男の横顔へと目をやった鈴菜は、男の浮かべる笑みの中にも何故か悲しげに見えるその瞳に気を取られていた。
それはいつか見た瞳……そうだ、病室のベッドで横たわる姉の瞳と同じだ。自らの運命を知りつつも、抗うかの様な悲しい瞳。ある種の覚悟を秘めた人間にしか現れない悲しい目だと鈴菜は感じていた。
METAL HEARTSに関わる事で、この男に何があったのだろう?紳士的な振る舞いの中で、不意に垣間見せるその心の中に潜ませた怒りの象徴たる獣の様な瞳。
この時の鈴菜は、何気ない日常に突如として現れた非日常である武田と言う男の存在に、姉の死の間際の真相への探究心と同じだけの好奇心を抑えきれずにいた。
METAL HEARTSが嫌い。
ただそれだけのありふれた理由だけなら、こんな男に着いて行く事は無かっただろう。
「この店です。アンティークな雰囲気でいいでしょう? 」
自問自答する鈴菜の思考を遮ぎったのは、武田のその楽しげな声だった。鈴菜が慌てて伏せていた目を上げる�
と、そこに現れたのはプラスティックを一切排除したかの様な、木目を基調としたブラウンで統一された佇まいの喫茶店だった。
「実は以前から気にはなっていたんですが、一人では入り辛くてね」
どこか恥ずかし気に語る武田に、鈴菜は無意識に笑顔を見せていた。大人帯びた口調の中で、武田が初めて見せた子供っぽい部分に、鈴菜は少しだけ親近感を憶えたのだ。
41:名無しさん@おーぷん:2016/08/31(水)23:53:04 ID:1ej
これでカツ丼とか出てきたら笑う
( ゜д゜)つ カツ丼大盛
44:名無しさん@おーぷん:2016/09/01(木)21:55:52 ID:vwt
「Cローズとは、丘野 薺さんがMETAL HEARTSの中で使っていたハンドルネームです」
「姉のハンドルネーム……」
私を忘れないで。そのメッセージを込めた名前をどんな気持ちで使っていたのだろう?その疑問へと向かい出した鈴菜の意識を、武田の言葉が呼び戻す。
「では、ティアラと言う名前もご存知ないでしょうね」
ティアラ。女性の頭に着けるあの飾りの事だろうか。言葉なく見つめ返す鈴菜の瞳から察したのか、武田は続けて語り出した。
「METAL HEARTSは自分の好みで組み立てたロボットを使って、他のプレイヤーと戦闘を行うゲームです。そしてティアラとは、貴女のお姉さんが自らのロボットに付けた名前です」
武田がそこまで語り終えた時、店主自らが白いカップに注がれたコーヒーを運んで来た。
店主に軽く会釈をし、鈴菜は窓の外へと目を移した。いつもの見慣れた町の風景も、このレトロな窓を通すと違って見える。まるでタイムスリップしてしまったような……そこに無意識に姉の姿を探している自分に気付き、それを振り払ぁ
Δ�のように再び武田へと視線を戻した。
その武田は、口に近づけたカップをすぐさまテーブルの上のソーサーに戻しているところだった。そこで鈴菜の視線に気付き、少し苦笑いした。
「実は、私は猫舌なんです」
その告白に鈴菜はどう返せば良いのか分からず、ただ武田を見つめていた。
45:名無しさん@おーぷん:2016/09/01(木)22:40:27 ID:vwt
「そのティアラと言う名前にも別の意味があります。正確にはティアとラを分離して表記していました。ティア……涙と言う意味もあったのだと思います」
「そうですか」
思わず口から出た自らの感情の無い冷たい言葉に、武田よりも鈴菜自身が驚いていた。
例えその名前を知ったところで、亡くなった姉は帰っては来ないのだ。ただ静かに秘めていた姉への想い、そしてその名前に込めた姉のメッセージを、目の前にいる男は分析して楽しんでいるのではないかとさえ思えて、鈴菜の中で湧き上がった怒りが無意識に現れたのかもしれない。
「薺さんは病状の悪化により、METAL HEARTSを辞めようとしていました」
鈴菜の表情の変化に気付きながらも、武田は淡々と言葉を続けた。
「しかし、その薺さんをMETAL HEARTSへと強引に引き留めたプレイヤーがいたのです。薺さんの病状を知りながら……」
そこで武田は一枚の紙をテーブルの上へと差し出した。
「これが薺さんを引き留めたプレイヤーのリストです」
鈴菜はリストへぁ
般椶鰺遒箸后�エリス、沈黙の狂戦士、ダンスランサー、ケンシン。その他にも幾つもの名前が並んでいるが、当然の様に鈴菜が知るわけもない。
「だから、これがどうしたんですか? 」
一方的に語られる武田の話に、鈴菜は苛立ちを現にして問い返していた。
「もしも彼らが引き留めていなければ、最後の時を薺さんはご両親や貴女と迎える事が出来ていたのかもしれないんです」
答える武田の声からも、それまでの穏やかさは消えていた。
49:名無しさん@おーぷん:2016/09/03(土)06:30:27 ID:anf
サーガの方はどうなった?
サーガは創作文芸板で続行中
51:名無しさん@おーぷん:2016/09/04(日)21:17:09 ID:Z49
やっと口を開いた鈴菜に、武田は一瞬笑みを浮かべて優し気な視線を向けた。
「Cancerプログラムとは、一言で言えば『意志を持ったプログラム』と言えるでしょう。Cancer自体の意味は癌ですが」
「癌……」
「そうです。自らの意志であらゆるシステムに侵入し、破壊するプログラム。それを華神グループは手に入れようとしていたのです」
「それが姉とどう関係するんですか? 」
「鈴菜さんのお姉さんにとって、METAL HEARTSは外の世界と繋がる事の出来る唯一の場所だったようです」
「そんな筈はありません。唯一の場所だったなんて」
「残念ながら事実です。お姉さん自身がそう語っていたという他のプレイヤーからの証言があります。そしてその場所をCancerプログラムは破壊しようとしていた」
武田はペンを置き、再びテーブルに両肘を突き組み手を組み合わせた。
「お姉さんは守る為にCancer捕獲に加わり、実際に捕獲してしまった。華神グループが喉から手が出る程欲しがっていたCancer�
プログラムを」
「そんな事……今更どうでもいいです」
「その日の夜、お姉さんは亡くなられたんです。因みにお姉さんが入院されていた病院は、華神グループの傘下にあります」
52:名無しさん@おーぷん:2016/09/04(日)22:16:23 ID:Z49
METAL HEARTS 1
http://ncode.syosetu.com/n7874ci/
53:名無しさん@おーぷん:2016/09/06(火)23:36:06 ID:WAY
そこで暫しの沈黙を置き、武田は鈴菜の目を真っ直ぐに見据えた。それが何事かの言葉を求められているように思えて、鈴菜は少しばかり身構えた。
「何が言いたいんですか? 」
「おかしいと思いませんか?Cancerを捕まえた日にお姉さんは亡くなられたんですよ」
待っていましたとばかりに、武田はすぐに言葉を返して来た。
「まるで……いや、この話しは止めておきましょう」
そこで言葉を切り、武田は脇に置いてあった黒の薄いバッグからタブレットを抜き出し、その光沢のある画面を鈴菜へと向けた。
「鈴菜さんにお願いしたい事はひとつです」
武田がタブレットの脇を軽く触れると、画面に一体のロボットが映し出された。女性的な曲線を有した細い身体の上にある無機質な青い両眼。その両手には剣を携えている。
「これはお姉さんの使用していたティア・ラです。この機体を使って一緒に偽善者達と戦いませんか?真実を知る為に」
「戦うって……そんなこと……」
「このティア・ラを見れば向こう�
から近づいて来る筈です。そしてこの機体を操るのは鈴菜さんこそが相応しい」
語気を強めて語った武田は、タブレットをテーブルへと置くと、先程のリストの下にアルファベットと数字の短い一文を書き込んだ。
54:名無しさん@おーぷん:2016/09/07(水)00:28:46 ID:7n4
「鈴菜さんとっての辛い思い出を呼び覚ましてしまった事は謝ります。しかし、これは貴方にとっても意味があるのです」
「私には何も出来ません。それをしたところで何が変わるんですか? 」
「変えるんですよ。このデタラメな世界を」
訴えるかのような言葉とは裏腹に、武田の目はどこか憂いを秘めていた。
「勿論、こちらからお願いする以上は、それ相応の報酬はご用意させて頂きます。どうかお力をお貸し頂けませんか? 」
「私は何をすればいいんですか? 」
「ただMETAL HEARTSでティア・ラを操るだけです。お姉さんを忘れかけた世界に、お姉さんを蘇らせてくれるだけでいいんです」
そう言うと、武田は鈴菜へとリストを差し出した。
「このリストの下に書いてあるアルファベットがログインパスワード、その下に私の携帯番号を書いておきました。わからない事があれば電話して下さい」
その番号を確認した鈴菜はソファーから立ち上がった。
「少し考えさせて下さい」
$!
B!VL^O@$G$9!W
自らのバッグを掴み逃げるように店を出ようとした鈴菜の背中に、武田は語りかけた。
「最後に。お姉さんを一番引き留めていたのは『ケンくん』と言うプレイヤーです。お姉さんが亡くなられた後に彼も消えましたが、彼は名前を変えて戻って来ている筈です。つまり、ケンくんこそが貴方の敵だと言う事だけは憶えておいて下さい」
その武田の言葉に、鈴菜は無言で頭を下げたのみで店を出た。失礼な態度かと思ったが、とにかくあの場所から離れたかった。
姉の死を悲しんでばかりはいられない。そう自分に言い聞かせ、やっと前を向いて歩いて行こうとしていた矢先に聞かされたもうひとつの事実。すぐに受け入れられる筈もなかった。
59:名無しさん@おーぷん:2016/09/08(木)06:26:19 ID:Bev
昼の街中で遭遇するなら楽しいけれど
夜の人気のない街角で出てこられたら
ビビるとは思う
62:名無しさん@おーぷん:2016/09/10(土)11:16:31 ID:uyC
朝霧さんヤンキーやめちゃったのかよ……
66:名無しさん@おーぷん:2016/09/15(木)22:21:09 ID:pxj
「何って……その為にあいつの高校を選んだんちゃうんかい? 」
「誤解なさらないで。庶民の生活を知るためです」
「庶民って……」
その時、呆れ顔の朝霧のスーツから僅かな振動音が響いた。掴み取ったスマートフォンの画面を見た朝霧は、物臭さ気に画面を押して耳へと当てる。
「なんやねん! 」
不機嫌に通話を始めた朝霧の後ろで、エリザベートはただ公園の男を見つめていた。学校でも顔を合わせれば話しはするが、笑顔を見せてもどこか寂し気な彼の瞳に、それ以上踏み入る事が出来ずにいたのだ。
彼を知りたい。ただそれだけの為に、エスカレーター式で入学するはずだったお嬢様校を蹴って彼と同じ高校を選んだのに。
近付けば近付く程、距離を感じてしまう。
だが、それは自分にも原因はある。エリザベートはそう感じていた。財閥の令嬢として生まれ育ち、周囲の羨望の眼差しの中でそれらしく振舞う。それが当たり前だと思っていた。
しかし、世の中を知れば知る程『そうでなければならない』と言う義務感に察
�た意識に追われて人と接して来た様に思う。その意識からいつしか人との間に壁を作る様な言葉を並べてしまっていた。
それは彼に対しても例外ではい。ついつい高飛車な態度で接してしまう。その度に自己嫌悪に陥りながらも、自分を変える事が出来ずにいる。しかし、彼は来年には卒業してしまう。
そのジレンマにエリザベートが物憂げな表情を浮かべた時、通話を終えた朝霧がスマートフォンを助手席へと投げる様に置いた。
67:名無しさん@おーぷん:2016/09/17(土)22:21:49 ID:g4B
アニエスはどんなキャラになるんやろ
とりあえず第04小隊に入ってもらおうかと
70:名無しさん@おーぷん:2016/09/19(月)21:20:28 ID:DkH
自分の部屋へと入った鈴菜はベッドへと腰を降ろし、バッグから武田より受け取ったリストを摘み出した。
エリス、沈黙の狂戦士、ダンスランサー、ケンシン、ベルフェゴール、メタ・ナイト、仏喜羅坊……
「芋の皮って……」
最後にプリントされた名前に、鈴菜は思わずその名前を口にしてしまった。
ゲームの世界でのハンドルネームなのだろうが、何故に芋の皮なのだろう。そんな小さな疑問を抱きつつ、その下に書かれた手書きの文字を見つめた。
羅列されたアルファベットと電話番号。そして武田真也の署名。更にその下に擲り書きされた02の文字。このリストが、何気ない日常に送り届けられた未知への招待状にさえ思える。
「お姉さんを忘れかけた世界」
武田のその言葉が頭の中でリピートされる。忘れるって何なのだろう?
辛い記憶から逃げる事なのか、無関心から消えてしまう事なのか。
鈴菜はリストを手にしたまま姉の部屋のドアを開けた。生前のままの状態で全ての物が整然と並べてられている。好きだった本、ノートパソコン、化�
粧品、クマのヌイグルミ、壁に目をやると好きだったファッションモデルのポスター。
「桜葉ほのか……」
そのポスターのモデルは先月にミュージャンに転身して曲を出したばかりだ。そうだ。姉の死とは関係なく、世界は動き続けている。理解していたつもりが改めて気付かされた現実に、鈴菜は溢れ出る涙を止める事が出来なかった。
71:名無しさん@おーぷん:2016/09/19(月)21:39:31 ID:DkH
「思い出になんかさせない」
溢れ出る涙を拭い、鈴菜は自らのスマートフォンを手に取った。これまで避け続けて来たその名前を検索する。
METAL HEARTS。姉の病室で見た文字が画面に現れた。あの日の光景が鈴菜の中に蘇り、更なる怒りが湧き上がる。
アドレナリンの成せる技なのか、叩きつける様な指運びで画面を進めた鈴菜はMETAL HEARTSからのひとつの問いかけへと辿り着いた。
「機種変更からの継続の方へ」
その下にあるパスワード欄へと、鈴菜はリストに書かれたアルファベットを打ち込んだ。暫しのダウンロードの文字を経て現れた画面の文字に、鈴菜の目に別の涙が溢れていた。
「お帰りなさい。帰って来てくれてありがとう」
それはただのプログラムだと分かっている。所詮、社交辞令なのだ。けれど、鈴菜にとっては大好きだった姉が生き返ったように思えてそれでも嬉しく思えた。
「私が……受け継ぐから」
鈴菜の決意に呼応するかの様に、画面には曲線的なラインのロボットが現れた。
機体名
悒謄�ア・ラ』
これが姉の分身。無機質でありながらも、女性である事を誇示するかの様な曲線の華奢なフォルムとピンクのカラーリング。抗がん治療でポロポロになりながらも、姉は……。
「思い出させてあげる」
鈴菜は機体名変更ボタンをタップしていた。
72:名無しさん@おーぷん:2016/09/19(月)21:51:00 ID:qDQ
葉桜です……
細かいところスマンけど
すまん。今気が付いた。
73:名無しさん@おーぷん:2016/09/19(月)22:00:31 ID:DkH
訂正
ポロポロ→ボロボロ
75:名無しさん@おーぷん:2016/09/22(木)22:57:26 ID:xLW
『ティア・ラ・リィンカネーション』
鈴菜は新たに言葉を付け加えた。
リィンカネーション……転生。しかし、確定ボタンを押すとすぐさま、文字数オーバーよ警告が画面に現れた。
『ティア・ラ・リィン』
直ぐには理解し難い名前になったが、鈴菜はそれでも良かった。ティア・ラだけでも分かる人間には分かる筈だ。
次にハンドルネームの欄をタップする。Cローズの名前を消しては本末転倒ではないのか。姉の記憶を呼び起こすと言う目的とは相反する事だ。
しかし……鈴菜は躊躇しながらもその名前を消した。自分は姉の薺ではないのだ。自分の目的は姉を利用しながらも、その存在を忘れた者達への断罪。恐らくはそこに軋轢が生じる事は免れない。
その為に姉の名前に傷を付けたくはなかった。それさえも矛盾に思えたが、それだけはどうしても避けたかったのだ。
クリスマス・ローズ。その花言葉である『私を忘れないで』と言う姉の想いに応える名前は何だろう。鈴菜は姉のパソコンを、起動した。そして花言葉を検索する。
幾つもの�
花と、その花言葉が並ぶ画面の一箇所でその目が止まる。
『大切な思い出』
その花言葉を持つ花の名前を、鈴菜はスマートフォンの画面上にある空欄に打ち込んだ。
「エーデルワイス」
確定ボタンをタップすると、画面にひとつのメッセージが表示された。
「エーデルワイス、ようこそ最前線へ」
こうして鈴菜はこれまで忌み嫌っていたMETAL HEARTSの戦場へと足を踏み入れた。
76:名無しさん@おーぷん:2016/09/22(木)23:16:18 ID:xLW
同じ頃、エリザベート・華神と朝霧 零は華神ビルの地下駐車場にいた。その一角に設けられた役員専用のエレベーターの昇降ボタン脇のセンサーに、エリザベートがカードを翳す。
「お偉いさんは楽出来てええなぁ」
「嫌味かしら? 」
カウントダウンしていく階数表示の前で、エリザベートが朝霧の呟きに聞き返した。
「嫌味のひとつも言いたくなるやろ」
「お嫌なら辞めて頂いても構いませんわよ」
「それ、セクハラやで」
「それを言うならパワハラです」
蔑む様な目で見るエリザベートに、朝霧は苦笑いで応えた。普段なら朝霧にとっては言い返す事案だが、何故かこの小娘は憎めない。
「流石は社長令嬢、よう知っとるな」
「常識です」
「すまんな。非常識で」
「もう慣れました」
そんな意味のないやり取りの間に、エレベーターのドアが音もなく開き、中の照明が地下駐車場の青白い光とは別の光で照らし出していた。
78:名無しさん@おーぷん:2016/09/22(木)23:59:23 ID:xLW
「誰が操っているのかしら? 」
主語のない問いをエリザベートが朝霧に投げかけたのは、上昇するエレベーターの中だった。
「Cローズのティア・ラかいな? 」
「Cancer……かしら? 」
「Cancerってか、ボルテやろ? あれから一緒に行方不明やしな」
「ボルテ……」
その名と共に、エリザベートは目を閉じて黙考し始めた。ネットセキュリティ部門は21階にある。僅かにさえ思える時間でも、朝霧にとっては狭い空間においては耐えられない沈黙だった。
これまでも社長室に同行した事は何度もあるが、緊急時の対応の為なのからわからないが意外にも社長室は3階にある為に、朝霧にとっては一瞬ほどの時間しか感じられなかったのだが、21階ともなるとそうでもない。
「まぁ、誰かの悪戯やろ」
沈黙を破る為に、朝霧は社交辞令的な言葉で場を濁す。
「悪戯では済ませませんわ」
これまでとは違う感情を載せないエリザベートの言葉に、朝�
霧は沈黙に従った。彼女の親よりも長い時間を共にしている朝霧は、その声のトーンが彼女の本気の怒りを現している事を知っていたからだ。
その沈黙からの解放を告げるかの様に、僅かな浮遊感と共にエレベーターは目的の階で静かにドアを両サイドへとゆっくりと開いていた。
79:名無しさん@おーぷん:2016/09/25(日)22:09:17 ID:gfb
一切の無駄が省かれた長い通路は、低く設定された空調と相まってどことなく冷たく感じる。目的の部屋は、その通路を奥まで進んだ所にあった。
「ハッカー君、来たで」
朝霧はノックもせずにドアを開けた。
「早かったな、ヤンキー女」
パソコンのモニター三台に囲まれた男が、顔を向ける事なく答える。
「Cローズの亡霊って、どう言う事かしら? 」
朝霧に続いて部屋へと入ったエリザベートは、挨拶も無しにいきなり本題へと切り込んだ。
「相変わらず愛想がないね。エリスちゃんは」
縁無し眼鏡の中程を右手の中指で押し上げ、男はやっと二人の招待客へと目を向けた。
この男が財津 泰雅だ。白いシャツにサスペンダーが細身の身体に良く似合っている。彼はMETAL HEARTSのプレイヤーでもあり、メタ・ナイトと言うハンドルネームでプレイしている為に、エリザベートの事を彼女のハンドルネームで読んでいた。
「その名前で呼ばないでと言いましたよね? 」
「まぁまぁ
�それよりこれ見てよ」
財津は新しい玩具を手に入れた子供のような笑顔で、モニター画面を見るようにエリザベートに促した。覗き込むと、そこには見覚えのある機体の姿があった。
80:名無しさん@おーぷん:2016/09/25(日)22:10:23 ID:gfb
「ティア・ラ……」
エリザベートは思わずその名を口にしていた。
「ティア・ラやけど、リィンって何やねん?別物やろ。ハンドルネームもエーデルワイスやんか」
同じく画面を覗き込んだ朝霧が、彼女らしい素朴な疑問を投げかけた。
「それがさ、僕が見つけた時は機体名はティア・ラで、ハンドルネームもCローズのままだったんだよね」
そう言いつつ、財津は尚も嬉しそうな表情で腕を組んでいた。
「Cローズは死んでるし、アカウントもCancerに乗っ取られて、その後行方不明やろ?誰が動かしてるんや? 」
「そんなのわからないよ。知りたければ直接本人に聞いてみれば」
困惑する朝霧とエリザベートを他所に、財津はキーボードをひとつ叩いて別のモニター画面へと視線を移した。
「今もログイン中みたいだよ」
「私がコンタクトします」
エリザベートは自らのスマートフォンを手に取り、METAL HEARTSへとログインする。タイトル画面から格納庫へと移ると、そ�
こには白い翼を広げた機体が姿を現した。
ハンドルネーム「エリス」使用機体名
「光の騎士」それこそがエリザベートのMETAL HEARTS内での姿だった。
81:名無しさん@おーぷん:2016/09/25(日)22:10:58 ID:gfb
その頃、丘野 鈴菜は姉の部屋でひと通りの機体操作を学び終えたところだった。そろそろ母親が帰って来る時間でもある為にログアウトしようとした時、画面にひとつの表示が現れた。
「エリスさんから対戦を申し込まれました。受けますか? 」
エリス……その名前に、鈴菜はすぐさま武田から受け取ったリストを手繰り寄せた。確かにその名前が一番上に書かれてある。
「どうしよう」
心臓の鼓動が高まるのと同時に、スマートフォンを持つてが僅かに震えている。いくら仮想世界とは言え、元来争い事が苦手であった。しかし……
「逃げないよ」
鈴菜は対戦を受け入れた。勝ち負けではない。ただ「存在」を示すだけでもいい。それこそが姉の死の真相と、それに関わる人間達への断罪だと鈴菜は思った。
フェードアウトした画面に、徐々に広いドーム状の戦場が浮き上がった。遥かか彼方に白い機体が見える。それに重なるように対戦へのカウントダウンを示す数字が現れる。
「GO!」
対戦開始の赤い文字と同時に
�白い機体が青白いブースターの光を背に真っ直ぐに向かって来るのが見えた。
「エリス……光の騎士」
近付くにつれて、はっきりとした輪郭のそれは、騎士と言うよりも天使に近い。二つの白い翼を広げ両手に青いブレードを構えて疾走して来る姿に、鈴菜はただ戦慄していた。
84:名無しさん@おーぷん:2016/09/25(日)23:26:06 ID:gfb
「右腕破壊確認!使用出来ません」
けたたましいアラート音と共に、赤い文字が画面に現れる。その奥には、マシンガンを掴んだままのティア・ラ・リィンの右腕が地面へと弾き飛ばされていた。
エリス「Cローズなら避けていた」
再び画面下にメッセージが表示された。鈴菜は左手に装備していたブレードを後方に向けて振り抜く。しかし、そこには光の騎士のブースターが残した青い光のみが残されていただけだった。
見上げるとエリスの光の騎士は翼を広げて既に高く上昇している。その後を追って、鈴菜もティア・ラ・リィンのブースターを全開にする。
一瞬、鈴菜は震えた。何だろう、この爽快感は。空へと向けて加速する視界から後方へと流れ消える風景。まるで自らが風になったような。姉もこの爽快感を味わっていたのだろうか?
癌に身体を犯され、あの白一色の病室の中での制限された闘病の中で、姉も同じ感覚を味わっていたのか。それこそが姉をこのMETAL HEARTSに……。
いや、違う。それだけではない。そんな自問自答を繰り返していた時、此
討嗄觝擇硫萍未鬟▲蕁璽伐擦閥Δ望弖發�襲った。
「左腕撃破確認!使用出来ません」
その文字の奥に浮かぶ青い二つの目。急降下した光の騎士に、ティア・ラ・リィンは左腕までも斬り落とされていた。
抵抗を止めたティア・ラ・リィンを踏み台として、エリスの光の騎士も自然落下に任せて降下する。
エリス「あなたは誰? 」
やがて地面へと叩きつけられたティア・ラ・リィンへと光の騎士が再び問いかけた。
エーデルワイス「私は私」
争い事を極力避けて来た鈴菜が、初めて感じる敗北感から出て来た言葉はそれだった。
85:名無しさん@おーぷん:2016/09/25(日)23:55:21 ID:gfb
エリス「ならば、目的は何? 」
エーデルワイス「断罪」
その言葉に、華神グループ本社の一室で画面を注視していた三人は顔を見合わせた。
「どう言うこっちゃ? 」
「断罪とは穏やかじゃないね」
朝霧の疑問に財津の言葉が重なる。その二人の傍で、エリザベートは無言のうちにスマートフォンの画面上で指を滑らせていた。
エリス「断罪って何のこと? 」
エーデルワイス「あなたって質問ばかりね。私にも質問させてよ」
エリス「何? 」
地面に横たわる機体と、それを踏み付ける機体。その間に暫しの沈黙が流れた。
エーデルワイス「ケンくんはどこ? 」
沈黙を破ったその名前に、今度はエリザベートが沈黙する事になった。
「ケンくんを探してるって、こいつ何やねん? 」
沈黙するエリザベートの心を朝霧が代弁する。
「まぁ、メタハー古株なら知ってるよね。ケンくんはある意味有名だから」
朝�
霧の問いに答えたのは財津だった。確かに過去のMETAL HEARTSにおいて、ケンくんは一人で五十人のプレイヤーを撃破した男として話題にはなったのは確かだ。
「それだけかしら? 」
沈黙していたエリザベートが再び言葉を発した。
86:名無しさん@おーぷん:2016/09/26(月)00:26:17 ID:k0F
エリス「ケンくんは知っているけれど、彼を断罪するつもりなら教えられない」
エーデルワイス「どうして? 」
エリス「間違っているから」
エーデルワイス「何が間違いなの? 」
エリス「ケンくんはCローズの為に戦ったからよ」
エーデルワイス「Cローズの為に? 」
エリス「お互いがお互いの存在を大切に思っていた筈よ」
エーデルワイス「筈よ?それって貴女の主観よね? 」
エリザベートは再び沈黙した。その沈黙に、鈴菜はひとつの確信を得ていた。そしてその確信からひとつの言葉を画面上に弾きだしていた。
エーデルワイス「どうでもいいけど、私にも知る権利はあるわ。だって、私にとっても大切な人だから」
エリス「大切な人? 」
エーデルワイス「そう。大切な人」
そのメッセージを見るとほぼ同時に、エリスの光の騎士の右手のブレードがティア・ラ・リィンの急所であるコアを貫いていた。
「対戦終了。勝者エリス」(!
J
画面を覆うその文字を見た瞬間、エリザベートは我に帰ってスマートフォンを握り締めていた。
87:名無しさん@おーぷん:2016/09/27(火)21:04:36 ID:Ypt
「その根拠は? 」
「それぞれ何かしらの意図が集まってるって感じだな。例えば……」
エリザベートの問いに、財津は次の画面を開いて答えた。
「これは……」
「ハンドルネーム、アリス。機体名ダークネスクィーン。闇の女王ってとこかな」
エリザベートが絶句したのには理由があった。そのモニターに映し出されていた黒一色の華奢な機体は、彼女がよく知るものだったからだ。
「闇の女王って、強そうには見えんけどな。こいつがどうしてん? 」
胸の前で腕を組んだ朝霧が不思議そうに覗き込む。
「かつて閃姫アリスと呼ばれていたプレイヤーだよ」
「閃姫って、エリスの他にもおったんか」
「正確には、元閃姫かな」
「初代閃姫ってわけや」
閃光のように現れ、敵を斬り刻む。極限まで軽量化した機体による高速一撃離脱型のプレイヤー。いつしか他のプレイヤーから閃姫と呼ばれていたアリスに憧れ、エリザベート自身も速さと強さを極めて来た結果、アリスが消えた後は函
狃�が閃姫と呼ばれるようになっていたのだ。
「戻って来たのね」
「そうみたいだね。久々にログインしたのは最近みたいだから。厄介なのは、この子だけじゃないよ」
そう言った財津は次のプレイヤー画面を開いて見せた。
90:名無しさん@おーぷん:2016/09/27(火)21:33:58 ID:Ypt
「ハンドルネーム、ブラウエ。機体名、青騎士」
財津が名前を読み上げたモニター画面には、その名の通りの中世の騎士を思わせるパーツで組み上げられた青い機体が映し出されていた。
「こいつは何者やねん? 」
「過去最強と呼ばれていた芋の皮と組んでMETAL HEARTSを荒らしていたプレイヤーだよ」
「芋の皮とどっちが強いねん? 」
「同じくらい強いかも」
「マジで厄介やな」
「まぁ、エーデルワイスを含めこの三人なら偶然って事もあり得るけれど、そうじゃなさそうな奴もいるんだよね」
財津は更に次の画面へと進める。
「例えばこのベリトと言うプレイヤー。この子は、元はレギスってハンドルネームを使っていた」
ジャバウォックと名付けられた機体は刺々しいパーツで組まれた中型機体で、全て黄色に塗装されている。
「派手やけど見た事ない機体やな。でも、レギスって名前は聞いたことあるような気もするなぁ」
「レインビートのリーダーのひとり」
>
腕を組んだまま首を傾げる朝霧の隣で、エリザベートが思い出したように小さく囁いた。
「さすがエリスちゃん。いつだったか、沈黙の狂戦士に叩きのめされたプレイヤーだよ。そしてもうひとり……」
切り替わった次の画面には、ピンクで統一された女性的なラインの機体が現れた。
「ハンドルネーム、アマデウス。機体名、セイレーン。この子の元の名前はファントムレディ」
91:名無しさん@おーぷん:2016/09/27(火)21:59:40 ID:Ypt
「ファントムレディ?知らんな」
再び首を傾げる朝霧の側で、エリザベートもその名に困惑しているようだった。
「このプレイヤーはダンスランサーの槍で串刺しにされた子だよ。あれも酷かった。沈黙の狂戦士程ではないけれど」
「お前の言いたい事がさっぱりわからん。要点だけ言えや」
物知り顔で悦に浸る財津のサスペンダーを朝霧は摘み上げる。
「何で直ぐに手が出るかな。ヤンキー女は」
「回りくどいのが嫌いなだけや、ボケ」
小競り合いを始めた朝霧と財津の傍で目を閉じて思考を巡らせていたエリザベートが不意に口を開いた。
「デミウルゴス……」
「そう。このレギスとファントムレディはデミウルゴス側にいたプレイヤーなんだよ。そして、彼らの言葉を使えばそれぞれがそれぞれの『敵意』を抱いている」
「どつき合いのゲームでボコボコにされたからって、恨むってのもおかしな話しやなぁ」
「それだけかしら……」
こめかみに人差し指を当てたエリザベートが首を傾げ�
る。これは考え事をする時に彼女がたまに見せる癖であり、どこか幼げに見えて朝霧は好きな仕草だった。
「確かに、それだけじゃないよね」
財津は中指で眼鏡をちょんと押し上げた。これは財津が何かを企んでいる時の癖のようだが、朝霧は好きになれなかった。
92:名無しさん@おーぷん:2016/09/27(火)22:31:12 ID:Ypt
「デミウルゴスはもう解散しとるやろ?」
デミウルゴスとは、過去にCancerプログラムを巡ってMETAL HEARTSを混乱させたハッカー集団を中心とした部隊であったが、朝霧の言うように既に解散していた。
「デミウルゴスはね。でも、黒幕の『OZ』のメンバーはまだCancerプログラムを諦めたわけじゃないと思うよ」
財津はそこまで語ると、椅子に深く身体を沈めた。
「諦めるも何もCancerプログラムは、もうMETAL HEARTSでは見つからんやろ」
「それはわからないよ。Aggressorプログラムだって潜んでいる可能性もあるし」
OZもハッカー集団だが、その規模は世界的であり、指揮系統やその他一切の詳細がわからないにも関わらず強大な力を持っていた。そのOZが華神グループのサーバーに残されたCancerプログラムの一部を使って作り出したのがAggressorと言う破壊プログラムだった。
「お前、何でも知ってるんやな。ひょっとして、お前がOZなんちゃうんか? 」
「かもしぁ
譴覆い諭�
その財津の言葉が部屋に沈黙を呼んだ。それまで気付きもしなかった空調の音がやけに大きく感じる程に。
「とりあえず、お前はクビや」
「何でそうなるんだよ。冗談だろ」
93:名無しさん@おーぷん:2016/09/27(火)22:48:17 ID:Ypt
「いや、お前のさっきの顔は冗談を言っとる時の顔ちゃう」
「それだけで?不当解雇だよ」
「ねぇ……」
朝霧と財津の言い争いに割って入ったのはエリザベートだった。
「どうしたエリスちゃん? 」
「セブンスって事は、もう一人いるのかしら? 」
「ああ、忘れてた。最後の一人」
モニター画面へと向き直った財津がキーボードをひとつ叩くと、そこに赤い重量感のある機体が現れた。
「ハンドルネーム、ウォーロック。機体名、ラグエル。この子は全く分からない」
「分からない? 」
「僕達にもデミウルゴスにも、全く関わりが無いプレイヤーなんだよ」
頬杖を突いた財津の背後から、朝霧がのっそりと覗き込むように彼の耳元に口を寄せた。
「お前が恨まれてるんちゃう? 」
「人畜無害の僕が恨まれるわけないじゃん」
「はぁ?人様のコンピュータいじくり回してたのは誰やったっけ? 」
94:名無しさん@おーぷん:2016/09/27(火)23:11:57 ID:Ypt
「さぁね。誰だっけ? 」
その言葉に、朝霧は財津の両耳を摘んで引き上げた。
「はい、ハッカー君がクラッカー君に昇進しまぁす。でも、お前クビ」
「痛い痛い!それにそれって昇進違うから! 」
二人の騒がしさを気にも止める事なく、エリザベートはただ赤い機体を見つめていた。財津が言うように、OZが絡んでいる可能性はある。だが、確かな証拠もない。しかし、ティア・ラの件はケンくんに知らせて置くべきか。
「とりあえず、明日にでもケンくんには伝えておいた方がええで」
自らの思案を見透かしたような朝霧の言葉に、エリザベートは動揺から顔を赤らめた。
「そ、そうですね。機会があれば伝えましょう」
「で、親父さんにはこの事を報告しておくかい? 」
「もう少し様子を見ましょう」
そう言うと、エリザベートは一人ドアへと向けて歩き出した。
「それから、僕ってクビなの? 」
「そんな権限は私にはありません」
そ�
れだけ言い残し、エリザベートは朝霧を連れて部屋を出て行った。その気配が消えたのを確認し、財津はため息をひとつついた。
「女の勘?野生の勘?どちらにせよ、あのヤンキー女は怖いな」
97:名無しさん@おーぷん:2016/10/04(火)22:46:58 ID:bbe
翌日、鈴菜は屋上へと続く高校の階段ひとつに座り、スマートフォンの画面を見つめていた。
「コア破壊確認!撤退します」
昨日のエリスとの対戦後に現れた敗戦を示す文字が、いつしか鈴菜の僅かに残っていた闘争本能に火を付けたらしい。ひとつひとつ機体パーツの特性を見直していた時、不意に背後から男の声がした。
「お前もハープなのか? 」
振り返ると、そこには知っている顔があった。小学生の頃からガキ大将的な存在だった一つ上の鈴菜からみれば先輩にあたる奈津 直人と言う男だった。
「ハープ? 」
鈴菜は初めて聞いたその言葉に、即座に直人に聞き返していた。
「なんだよ、知らないのか?メタハープレイヤーの略で、ハープ。お前、やり始めたばかりか? 」
そう言いながら、直人は鈴菜の手にしているスマートフォンの画面を覗き込んでいた。
「お前……」
その直後、直人は驚愕したかのように動きを止めていた。
「変……かな? 」
!
$B$3$lKx$K8+$?;v$N$J$$D>?M$NI=>p$K!”Nk:Z$O:F$SJ9$-JV$9!#
「いや、変も何も……同じ部隊に入った新人がお前とはな」
「え?同じ部隊? 」
奈津 直人の発した同じ部隊と言う言葉に、今度は鈴菜が狼狽しながら所属する部隊の画面を開いていた。
98:名無しさん@おーぷん:2016/10/04(火)23:04:24 ID:bbe
「え?どのプレイヤー? 」
そこにはMETAL HEARTSの世界での仮の姿であるアバターとその使用する機体が表示されていた。考えてみれば、最初にログインした時から機体の操作に慣れる事に精一杯で、鈴菜は部隊の事など気にも止めていなかったのだ。
「これ」
奈津 直人は自らのスマートフォンの画面を鈴菜へと差し向けた。それと照らし合わせる様に、鈴菜は自らの手の中にある画面を見る。
ハンドルネーム、ブラウエ。機体名、青騎士。確かにそこにその名前があった。
「全然違うよね」
鈴菜の違和感は、直人のアバターを見てのものだった。長い黒髪に忍者の様な服を纏わせている。だが、現実の奈津 直人はボサボサ頭で、その前髪の下の目はいつも眠そうにしている冴えない高校生だ。
「そんなもん、適当だろ」
そう言いつつ、直人は鈴菜と並ぶ様に座った。
「てか、何でお前がこの部隊に入れたんだよ。seventh maliceって部隊は強い奴の集まりだぞ」
「武田って男の人が……」(!
J
そこまで語って鈴菜は口籠ってしまった。どう説明すれば良いのだろう。
「ああ、あいつか。俺んとこにも来たけど、何者なんだろうな」
鈴菜の不安を吹き飛ばす言葉が直人の口から出て来た。
99:名無しさん@おーぷん:2016/10/09(日)06:02:20 ID:rXB
テス
100:名無しさん@おーぷん:2016/10/11(火)01:53:46 ID:6tM
「え?先輩も武田って人と会ったんですか? 」
「ああ、いきなり来て勝手に話して帰って行った。てか、先輩って呼び方やめろ」
「なんて言われたんですか? 」
その問いに奈津 直人は一瞬躊躇いの表情を見せた。
「てか、ちょっと対戦してみようぜ」
そう言って直人は自らのスマートフォンの画面を指で触れる。
「私、弱いです」
「知ってる。てか、敬語やめろ」
そこで鈴菜の画面にドーム状の戦場が現れた。対面するドームの端にランスとシールドを構えた青い機体が見える。
「強いんですよね」
「お前よりはな」
鈴菜は装備したマシンガンを構えて、ティア・ラ・リィンを青騎士へと向けて前進させた。全開にしたブースターが作り出す加速感が心地良い。やがてマシンガンのロックオン表示の赤い円が青騎士を捉えた。
「撃ち堕とします」
「やってみろよ」
青騎士へと接近しながらマシンガンの引き金を引くと、鈴菜の指に軽い振動�
が伝わって来た。対する青騎士は浴びせられた弾丸の雨を構えたシールドで塞いだまま立ち尽くしている。
鈴菜はティア・ラ・リィンを右へと旋回させて青騎士の背後を狙おうとしたが、青騎士はシールドをティア・ラ・リィンの動きに合わせ機体をその場で旋回させていた。
101:名無しさん@おーぷん:2016/10/11(火)01:54:46 ID:6tM
このままでは埒があかない。鈴菜は焦りを感じていたが、武装はマシンガンとブレードのみしか装備していない。ブレードの方がダメージを与えられそうだが、百戦錬磨であろう青騎士相手に接近戦では勝てる見込みもない。
その時、青騎士の背後に青白い光が見えた。ブースターの光だ。鈴菜の動揺を察したのだろう。丸いシールドを左腕に構えたまま、ティア・ラ・リィンへと向けて青騎士が疾走を開始した。
「やめて下さい」
「嫌だね」
「初心者相手に本気ですか? 」
「アホか。どつき合いのゲームだろうが。てか、敬語やめろ」
そんな会話の間にも、青騎士は徐々に距離を詰めて来る。軽量機体のティア・ラ・リィンならブースター全開で逃げ切れるだろうが、既にエネルギーゲージは残り僅かになっていた。
「よし、捉えた」
直人が不意に呟くと同時に、鈴菜のスマートフォンから聞き慣れない警告音が響いた。
「何の音ですか? 」
「ロックオンされたんだよ」
「ロックオン? 」
!
その瞬間、青騎士の背後から白い軌道を描きながら二つの物体が射出された。
「ミサイルですか? 」
「正解」
「ミサイルとか騎士道に反します」
「俺は日本人だから武士だな」
「尚更です! 」
102:名無しさん@おーぷん:2016/10/11(火)02:24:49 ID:BfC
コロッケうめぇ
久しぶりだなwwもうすぐ第04小隊も出るよ
103:名無しさん@おーぷん:2016/10/11(火)02:48:58 ID:6tM
迫り来るミサイルから逃れるべく、ブースターを限界まで噴射しようとした時、鈴菜の意に反してティア・ラ・リィンは動きを止めた。
「何で? 」
「エネルギー切れ」
悲壮な鈴菜の声に直人が淡々と答えた瞬間、鈴菜の指に激しい振動が伝わる。
なす術もなくミサイルの直撃を受けたのだ。辛うじて撃破は免れたものの、かなりのダメージを負っていた。
だが、本当の危機はミサイルの残した爆煙の奥から現れた。巨大なランスを構えた青騎士が、砂煙と共にティア・ラ・リィンの眼前へと迫り来ている。
その輪郭がはっきりと見える距離まで近づいた青騎士を見た時、鈴菜は彼の放つ威圧感に圧倒されて逃げる事さえ忘れていた。
全ての攻撃を無力化しそうな分厚いシールドと、円錐形の先を鋭く尖らせたランスは向けられた者の戦意を奪う。そして何よりその奥で光る頭部の二つの赤い眼光が鈴菜は堪らなく怖かった。
立ち尽くすティア・ラ・リィンの中央を、ランスが貫こうとした瞬間、青騎士もまたその動きを止めた。
「お前、本当に弱いのぁ
福�
「最初に言いましたよね」
呆れ顔の直人にそう言葉を返した時、鈴菜は画面の端で赤く点滅するボタンに気が付いた。半ばやけになってそのボタンを押した瞬間、ティア・ラ・リィンはマシンガンを装備解除し、両手にブレードを瞬時に装備していた。
「お、まだやるか」
「いえ、勝手に……」
鈴菜が答え終わる前に、画面の中のティア・ラ・リィンが高速回転を始めた。迫るランスを上に弾き飛ばし、青騎士の胴体へと斬り込んだ。対する青騎士はそのブレードをシールドで受け流しひとつ後ろへと飛んだ。
105:名無しさん@おーぷん:2016/10/11(火)03:00:20 ID:iXn
おお久し振りにみた
オマサガ完結したの
(; ̄ェ ̄)まだ継続中
107:名無しさん@おーぷん:2016/10/11(火)03:23:40 ID:6tM
「危ねぇ。だが……」
ブレードを構えたまま高速回転するティア・ラ・リィンへと向けて、青騎士が再び突撃した。次の瞬時には、背後から青いランスで胴体を貫かれたティア・ラ・リィンが画面の中で動きを止めていた。
「流石は元死神部隊にいた機体だな」
「死神部隊? 」
「ライム第04小隊。強者揃いの精鋭部隊だよ。今もあるはずだけど……」
直人の言葉を聞きながら、鈴菜はフェードアウトしていく画面の中のティア・ラ・リィンを見つめていた。
「お前さ、Cローズとどう言う関係なんだ? 」
自らのスマートフォンをポケットへと無造作に放り込み、未だ画面を見つめる鈴菜へと直人が声をかけた。
「Cローズを知ってるんですか? 」
やっと画面から直人へと顔を向けた鈴菜の視線に照れたのか、今度は直人が目を逸らしていた。
「知ってる。強かったってか、速かったな。エリス程じゃないけど」
「エリスも知ってるんですか? 」
「!
(JMETAL HEARTSじゃ有名人だからな。てか、何でお前知ってるんだ? 」
「昨日、対戦しました」
その言葉に、直人は再び鈴菜の顔を見た。
「お前、無謀だろ」
「エリスから仕掛けて来たんです」
「まぁ、消えた筈のCローズが戻って来たとなったらそうなるか。てか、お前ってCローズの何なの? 」
「Cローズは姉です」
111:名無しさん@おーぷん:2016/10/11(火)20:12:32 ID:zzo
蒼き三日月を導く者
希望ですな
了解です!それでいきますm(_ _)m
113:名無しさん@おーぷん:2016/10/11(火)20:53:56 ID:6tM
「マジか……」
「はい……」
それだけの言葉を交わした後、二人は沈黙の中で正面の窓の外に広がる校庭を見つめていた。それまで気にも止めなかったサッカー部員の発する怒号などの喧騒がやけに大きく耳の奥に響く。それ程の時間、直人と鈴菜は沈黙していたのだ。
「厄介な事になりそうだな」
「はい? 」
その沈黙を破った直人の意外な言葉に、傍らで座る鈴菜は自らも驚くほどの妙なイントネーションで問い返していた。
「知りたいか? 」
「はい」
自らの問いに、更に問い返す直人の勿体振る態度に期待しつつ鈴菜は即答していた。
「なら、俺の頼みも聞いてくれ」
「何ですか? 」
「それは後で話す。放課後、校門で待ってるから」
鈴菜の戸惑いを他所に、直人は一人階段を駆け下りた。
「てか、敬語はやめろ。調子が狂う」
廊下へと降り立った刹那、少しばかり顔を鈴菜へと向けた直人が言い放った。
「すいませ�
ん」
「他人の話し聞いてないだろ? 」
階段上の鈴菜に直人は悪戯な笑顔を向けた。
「ごめん……」
「そうそう、それでいい。てか、それがいい。じゃあ、後でな」
右手を軽く振りながら、直人は鈴菜の視界からその姿を消して行った。
114:名無しさん@おーぷん:2016/10/12(水)17:54:08 ID:sJQ
同じ頃、別の高校に通うケンくんの教室の外でもひとつの異変が動き回っていた。
「あれって、もしかして噂の御令嬢じゃね? 」
クラスメイトの問い掛けに、参考書から廊下へと目を移したケンくんの視界へ教室と廊下を隔てる磨りガラスの窓の外を行き来する女の影が飛び込んで来た。
「もしかしなくても、そうだろうね」
ケンくんは苦笑いで答える。磨りガラス越しにでもはっきりと分かる黒い服とブロンドの髪。そんな特徴的な人間はこの学校には一人しかいない。エリザベート・華神だ。彼女は一旦ドアの前で立ち止まり、また廊下を歩いて引き返し、再びドアへと歩いてを繰り返している。
「どうせ謙介目当てだろ。お前行って来いよ」
クラスメイトがからかう様に謙介へ促す。上杉謙介。それがケンくんの名前だった。
「そうだね。面白いけど、ちょっと可哀想になって来た」
エリザベートの影が丁度ドアの前に差し掛かるタイミングで、謙介が素早くドアを開けた。
「あら、先輩殿」
さも、偶然に出く�
わしたかの様にエリザベートがすまして言った。
「せ……拙者でござるか? 」
謙介のその返答に、エリザベートは自らの発した言葉が可笑しかった事に気付き顔を赤らめた。決してわざとではないのだ。極度の緊張から意図せず武士の様な言葉になってしまったのだ。
「な、何か御用かしら? 」
「え?いや、眼鏡……」
謙介はしどろもどろになりながらも、エリザベートの顔を指差していた。
115:名無しさん@おーぷん:2016/10/17(月)20:29:09 ID:AxF
「そうそう、近頃黒板の文字が見えにくかったので眼鏡を掛けてみましたの」
戸惑う謙介を他所に、エリザベートは右手の人差し指で眼鏡の縁を押し上げてみせた。
「そ……そうなんだ。似合ってるよ、その眼鏡」
「あら、心外ですわ。もっとシャープな物を所望していたのですけれど」
見れば確かに黒縁の丸っぽい、謂わゆるボストンと呼ばれるタイプのフレームで、エリザベートの細っそりとして顔には不釣り合いに思えた。
「だけど、普段は外しておいた方がいいよ。もっと視力が落ちるかもしれない」
そう言いながら、謙介は両手をそっと眼鏡のテンプルへと差し伸べて外していた。その予想外の行動に、エリザベートは目を見開いたまま硬直してしまった。
その間、謙介はさりげなくある事を確認していた。レンズを通して見る足元に変化はない。やはり伊達眼鏡か。
「そ、そうでしたわ。一応お伝えしてしておくべき事がございまして」
「何かあったの? 」
緊張からか口調まで硬くなったエリザベートへと�
、謙介が眼鏡を差し出しながら問いかけた。
「ティア・ラが動き出しましたの」
「そうなんだ。けど、俺はもうMETAL HEARTSをやってないから」
それまでのエリザベートの興奮を冷ましたのは、謙介のその一言だった。
116:名無しさん@おーぷん:2016/10/18(火)19:53:29 ID:gW4
( ゜д゜)ドーン!
117:名無しさん@おーぷん:2016/10/18(火)19:59:13 ID:gW4
強制下げされてないかのチェックでごわす( ゜д゜)
さて、書くか
118:名無しさん@おーぷん:2016/10/22(土)00:30:54 ID:M1L
「そうでしたわね。もう興味無いんですものね」
俯き気味に差し出された眼鏡を受け取ったエリザベートは、再び謙介の目を見上げた。その目はやはりどこか寂し気で、それ以上の追求を拒んでいるようにも思えた。
「もう授業始まるから戻った方がいい」
「わかっていますわ」
そう言い終える前に、エリザベートは既に謙介へと背を向けて歩き出していた。手には眼鏡を固く握り締め、少し早歩きで角を曲がり謙介の視界からその姿を消した。
「なぁ、謙介。お前、あの子にちょっと冷たくない? 」
二人の様子を教室内から見ていたクラスメイトが問いかけた。
「これでいいんだよ」
「何がいいんだよ?お前、まだMETAL HEARTSやってるじゃん。何で嘘ついたんだよ」
「知らない方がいいからさ」
「意味わかんね」
不思議そうに謙介の顔を覗き込むクラスメイトに構うことなく、謙介は再び席に着き参考書を開いた。午後の授業を告げるチャイムが鳴ったのは丁度その時だった。
120:名無しさん@おーぷん:2016/10/22(土)01:15:08 ID:M1L
それから数時間後、校門の前に横付けされた黒塗りの車の前に朝霧 零の姿があった。
「なんや、もう眼鏡はせぇへんのか? 」
「必要ありません」
不機嫌そうな顔で校門を出たエリザベートが朝霧に答えを返した。
「もう視力が回復したんかい。器用なやっちゃな」
からかう朝霧を無視するかのように、エリザベートは開かれた後部座席のドアから無言で車へと乗り込んだ。
「短いワンピも意味なかったか」
「ただのコーディネートです」
確かにいつもの服より丈の短いワンピースから覗く脚は、彼女にしては露出度が普段よりかはいくらか上がっている。
「その様子やと、撃沈したみたいやな」
「何をおっしゃっているのかわかりません」
運転席へと腰を降ろした朝霧の更なる追求に、エリザベートはますます不機嫌そうに答えていた。
「近年稀に見る面倒くさい女やな」
「貴女に言われたくありませんわ」
「はいはい。ほな、帰ろか」
!
適当にあしらった朝霧はゆっくりとアクセルを踏み込む。時折、後部座席に座るエリザベートを覗き見ながら、いつもの道を軽快に車を進めていた。梅雨明けしたばかりの空は青く晴れ渡り、地平線を覆うビルの向こうには白く聳える入道雲が夏の訪れをそれとなく告げていた。
「お!お嬢のお仲間がおるで! 」
アスファルトの路面を掴むタイヤの音意外は沈黙に包まれた車内に、少しトーンの上がった朝霧の声が不意に響いた。
121:名無しさん@おーぷん:2016/10/22(土)01:21:59 ID:Wo7
続き来てたか
読んでる人がいるのにも驚き
向こうのもこっちのも見かけ次第両方読んでるぞー
ありがとうございますm(_ _)m
125:名無しさん@おーぷん:2016/10/25(火)21:17:08 ID:ZBZ
「仲間? 」
エリザベートが虚ろな目で車外を見渡すと、フロントガラスの向こう側の横断歩道を渡る女の姿が見えた。
白い襟元と裾付近に十字架があしらわれた黒いワンピースに同じく黒い日傘。よくあるゴスロリではあるが、その長い黒髪から覗く瞳が神秘的な雰囲気を醸し出している。
「気合い入っとるなぁ」
朝霧の関心したような声に、彼女に魅入っていたエリザベートが我に返った。
「自己主張のひとつですわ。珍しくなくってよ」
「気が強そうやな。誰かさんと一緒で」
「どなたのことかしら? 」
「それやそれ。そういうところ」
その会話が聞こえたわけではないだろうが、日傘を差したゴスロリ女は横断歩道を渡り終えたところで立ち止まった。
だが信号は青へと変わり、朝霧とエリザベートを載せた車は静かに動き出した。
「なんやねん、あいつ」
前方を確認しながらも、ドアミラーへと視線を移す朝霧が呟いた。その呟きの意味を察したエリザベートはシートベル�
トを外して後方へと目をやった。そこには、立ち止まったままこちらを見ている先程の女の姿があった。
「聞こえたのかしら? 」
「んなわけあるかい」
エリザベートの素朴な疑問に朝霧が即答した時、ゴスロリ女が手元へと視線を移したのを朝霧は見逃さなかった。
「あいつ、只者ちゃうで」
野生の勘なのか女の勘なのか。朝霧の本能がそう彼女に語らせていた。やがて、それを証明するかのようにエリザベートのスマートフォンが僅かに振動していた。
「対戦を申し込まれましたわ」
自らのスマートフォンを取り出したエリザベートが溜息混じりに言った。
126:名無しさん@おーぷん:2016/10/25(火)21:19:06 ID:ZBZ
「誰やねん。天下の閃姫エリスに喧嘩を売ったアホは? 」
既に視界から消えたゴスロリ女を意識したような朝霧の揶揄うような声がした。
「ドナ・マリア」
画面に映るその名前をエリザベートが淡々と読み上げた。
「マリア様かいな。軽くいなしたれ」
「マリア様に失礼ですわ」
朝霧をそう窘めつつ、エリザベートは対戦を受け入れた。一旦フェードアウトした画面に、ゆっくりと対戦の舞台となるドーム状の戦場が浮かび上がる。やがてその中央に対戦相手の機影も現れた。
「面白い方ね」
その姿に、エリザベートは意図せずそう呟いていた。黒で統一された細い機体の両腕には、それぞれに巨大なシールドが装備されており、遠目に見ると楕円形の黒い塊にも思える。
防御重視の機体である事は分かるが、どの様な戦法なのか皆目見当もつかない。既に対戦は始まっているにも関わらず動く気配のない相手に、エリザベートは自らの機体「光の騎士」のブースターを全開にした。
「センスはあるようね」
!
接近するにつれその輪郭を露わにした敵機を見たエリザベートの感想はそれだった。黒一色に見えた機体の随所にはアクセントとして白が加えられており、バランスの取れた色使いだ。
両手にブレードを構えたまま最高速で突き進む光の騎士だったが、敵機の遥か手前で予期せぬ衝撃を受けて動きを止めた。
「何かしら? 」
画面中央に捉えた黒い塊の様な敵機は身動きひとつしていない。では、光の騎士にダメージを与えた衝撃は何だったのか?エリザベートは注意深く機体を旋回させながら周囲を見渡した。
128:名無しさん@おーぷん:2016/10/27(木)20:51:55 ID:a5a
「それを知る事に何の意味があるのかしら? 」
左右のシールドの隙間から覗くドナ・マリアの操る機体「エキ・ドナ」の赤い両眼がエリザベートを睨む様に光る。
その問いに返す言葉を探すエリザベートの沈黙に対し、エキ・ドナはシールドで光の騎士を掴んだまま同じく動きを止めていた。
「わたくしをご存知なの? 」
「素敵な車ね」
ドナ・マリアの返答に、エリザベートは目を見開いた。
「朝霧!あの女を追って! 」
「もう手遅れや」
慌てて指示を出したエリザベートだったが、周囲を見渡すと既にあの女を見かけた交差点へと戻っていた。違和感を感じた朝霧が先に車をUターンさせていたのだが、対戦に夢中になっていたエリザベートはその事に気が付いていなかったのだ。
「やっぱり仕掛けて来たんは、あの女やってんな」
独り言の様に呟かれた朝霧の言葉に応える前に、エリザベートは画面へと目を向ける。そこには未だエキ・ドナの赤い両眼が睨みを利かせていた。
「何�
が言いたいのかしら? 」
「また遊びましょうね。お嬢様」
答えにならない答えを返したエキ
・ドナが、一瞬だけシールドによる拘束を解いたかと思われた瞬間、突き出されたそのシールドの先端から杭が現れ光の騎士の胴体にあるコアを貫いていた。
コア破壊確認!撤退します。
エリザベートのスマートフォンの画面に浮かび上がったその文字の奥で、尚もエキ・ドナの赤い両眼が光っていた。
129:名無しさん@おーぷん:2016/10/28(金)08:13:03 ID:l0X
主人公が空気な件
これからこれから
131:名無しさん@おーぷん:2016/11/02(水)07:05:08 ID:5ba
テス
132:名無しさん@おーぷん:2016/11/04(金)23:51:58 ID:KoX
その頃、丘野鈴菜は校門の脇で奈津 直人を待っていた。街路樹の葉を揺らした風が鈴菜の前髪をも揺らし、少し汗ばんだ頬を撫でて吹き抜けて行く。
時計代わりにスマートフォンを覗くと、時刻はもうすぐ15時になろうとしていた。
「お待たせ」
その声に鈴菜が振り向くと、黒いバッグを肩に掛けた直人が立っていた。
「廊下で担任に捕まっちゃってさ」
「何かあったの? 」
直人の元気のない声に、鈴菜はそう問わずにはいられなかった。
「実はさ、昨日、親父の再婚相手が仕事中に倒れてな。その事を聞かれてた」
「お父さんの再婚相手って事は、お母さんって事でしょ? 」
きょとんとした顔で鈴菜は当然の疑問を投げかけた。その鈴菜へとちらりと目を向けた後、直人は不機嫌そうに目を細めた。
「そりゃそうだけど」
「大丈夫なの?病気? 」
「入院してる。大した事はないみたいだけどさ」
「行かなくていいの? 」
!
その鈴菜の言葉で、直人は逸らしていた細い目を再び鈴菜へと向けた。
「実は、俺が頼みたいってのはその事なんだ」
「その事? 」
遠慮がちに口籠りながら直人が言った。その言葉から何かしらの面倒に巻き込まれそうな予感を受けつつも、鈴菜は思わず直人の困り顔を覗き込んでいた。
133:名無しさん@おーぷん:2016/11/05(土)01:06:49 ID:fGN
「うん。親父は出張中で直ぐには戻れなくてさ。それで俺が着替えとか持って行かなきゃならないんだけど……その、よくわからなくてさ」
「なんだ、そんな事なの? 」
「なんだって……女物なんて分かんねぇよ」
一層不機嫌になる直人の顔に、鈴菜は笑いを吹き出しそうになり咄嗟に両手で口元を隠していた。
「笑い事じゃねぇよ」
「分かった。手伝ってあげる」
「あともうひとつ。寄らなきゃいけないとこがあるから、そこにも付き合ってくれ」
「別にいいけど」
先に歩き出した直人を追う鈴菜は、その背中に子供の頃を思い出していた。近所の子供達で遊んでいた公園でも、この背中を追いかけていたような気もする。
無愛想で格好良いわけではなかったけれど、面倒見が良くて自分のような小さな子供も遊びの輪に入れてくれた。口は悪いけれど、根は優しい人間なのだ。
直人が中学に進学してからは一緒に遊ぶ事も無くなり、それから数年経ってはいるが、ほんの数時間前の蟠りも今はすっかり消えている。どちらかぁ
噺世┐仗邑�知りの自分がそうなれたのも、彼の包容力の為せる技なのかもしれない。鈴菜はそう考えていた。
「薺、てかCローズはMETAL HEARTSでは結構知られてたな」
唐突に姉の名を口にした直人により、鈴菜は淡い記憶から現実に引き戻されたように目を見開いた。
「死神部隊と名高いライム第04小隊の双剣使いCローズ。でも、その名を轟かせたのは……」
そこまで語った直人は、その足を止めて鈴菜へと向き直った。
「Cancer事件。一年前にMETAL HEARTSの中で起きた大事件だな」
「何があったの? 」
その大まかな内容は武田 真也に聞いていたが、直人から見たCancer事件をも知る事で、鈴菜は武田の話しの真偽を知れるような気がして敢えてそう問いかけていた。
134:名無しさん@おーぷん:2016/11/07(月)21:11:45 ID:o0D
「何がって聞かれてもなぁ。早い話しがバグだと思ってたのが実はウィルスで、しかも運営のやらかした事で……」
「全く分からないんだけど」
説明を遮る様に不満を漏らした鈴菜の視線を避け、直人は再び前を向いて歩き出した。
「分からないと言えば、お前のティア・ラ・リィンのリィンも分からないんだけど。もしかして、鈴菜だからリィンなのか? 」
「え? 」
直人の唐突な問いに、鈴菜は無意識に首を傾げていた。
「いや、だから、鈴菜の鈴でリィンなのかなと思ってさ。リィンリィンって」
そう言った直人は、右手で鈴を鳴らすように手を振って見せた。その子供じみた仕草と発想に、鈴菜は呆れた表情で直人を見た。
「内緒」
「何だよ、それ」
「そんな事より、Cancerって一体何なの? 」
「さっき言っただろ?コンピューターウィルスだって。てか、それも表向きの話しだけどな」
その直人の意味深な言葉に、鈴菜は足を止めた。
「どこま�
で知っているの? 」
悲壮感さえ漂わせた鈴菜の真剣な声に、直人は振り向く事なく立ち止まった。
「Cancerが悪魔の実験の産物って事までだよ」
「悪魔の実験? 」
「お前は知らなくていい」
少しばかりの沈黙の後、直人は一人歩き出した。鈴菜も追う様にその後に従う。怒りを含ませた直人の言葉に、鈴菜は歩幅ふたつ分の距離から先には彼の元に近付けずにいた。ただ、その背中を見ながら後を着いて歩くのみだった。
いくら幼馴染みとは言え、越えられない距離がある。それがこの距離なのだろうと鈴菜は勝手に考えていた。
137:名無しさん@おーぷん:2016/11/10(木)18:20:21 ID:Xnz
なんだこの空間は!
爆発しろw
wwwすまんww
139:名無しさん@おーぷん:2016/11/10(木)19:43:17 ID:uNj
( ´Д`)y━・~~はぁ、恋がしてぇ
140:名無しさん@おーぷん:2016/11/11(金)00:04:11 ID:9BB
作者が恋愛欠乏症を拗らせた為ここからは急遽内容を変更して
恋愛ドラマ「めたる・はぁと♪」をお送り致します
141:名無しさん@おーぷん:2016/11/11(金)00:04:54 ID:IJC
こういう作者は自キャラで抜く
142:名無しさん@おーぷん:2016/11/11(金)07:41:34 ID:uKW
うわなんか涌いた
143:名無しさん@おーぷん:2016/11/11(金)23:24:42 ID:ruZ
恋愛厨ならこれの前作に涌いたけどな
( ´Д`)y━・~~いたねぇ
145:名無しさん@おーぷん:2016/11/20(日)11:01:22 ID:2DB
テス
146:名無しさん@おーぷん:2016/11/20(日)20:31:32 ID:2DB
「ところで今からどこに行くの? 」
鈴菜は一歩踏み出し、直人に並んだ。
「もう直ぐそこだよ。あの黄色い建物」
直人が指差した方向を見ると、確かにグレーの街並みの中でも一際目立つ建物がある。
「保育園? 」
「そう、保育園」
「なんで? 」
「妹のお迎え」
「妹? 」
眼鏡からはみ出さんばかりに目を見開いた鈴菜をチラリと見て、直人は眉間に皺を寄せていた。
「親父の再婚相手の連れ子だよ」
そう言った直人は、再び歩き出していた。
「なんで? 」
その決まり文句の様な問いを鈴菜が直人の背中に投げかける。
「なにがって何だよ? 」
鈴菜の問いの意図が解らず、直人は堪らず問い返していた。
「なんでそんな冷たい言い方するの? 」
「冷たい言い方? 」
「なんでお母さんって呼ばないの」
「なんでって……なんぁ
任發いい世蹇�
鈴菜と目を合わせる事を避ける様に、直人は足早に保育園へと歩き出した。
鈴菜は黙ってその後を追って行く。徐々に開く二人の距離に、鈴菜は一人寂しさにも似た気持ちを抱いていた。
147:名無しさん@おーぷん:2016/11/23(水)21:25:33 ID:RdQ
「ここで待っていてくれ」
やがて保育園へと先に辿り着いた直人が、それだけ言い残し門から園内へと入って行った。一人取り残された鈴菜は改めて目の前の建物を見ていた。
原色に彩られた壁はまだ新しく、建てられてからそう年月は経ていない様に思える。所々に動物のイラストが貼り付けられた窓の奥から賑やかな子供達の声が漏れ出て来る。
その声に自らの幼少時代に思いを馳せていた鈴菜の目の前に、小さな女の子を連れた直人が現れた。
「お待たせ」
気だるそうに言った直人の後ろから、不思議そうに彼の妹であろう女の子が鈴菜を見上げていた。
「初めまして、お名前は? 」
鈴菜はそう問いかけながら、女の子の視線に合わせる様にその場で腰を落とした。
「なずなです! 」
響き渡る様な甲高い声で女の子が右手を上げて答えた。
「なずな……ちゃん? 」
その名前に、鈴菜は絶句するしかなかった。何故なら、それは今は亡き姉の名前だったのだから。
「数�
字の七に、絆って字で『なずな』って呼ぶんだ」
鈴菜の童謡を察したのだろう。直人か間髪入れずに説明を入れた。
「七絆ちゃん。いいお名前だね!お歳はいくつですか? 」
「六歳です! 」
女の子は左手の小さな指を広げ、その横で右手の人差指を鈴菜へと向けていた。
「六歳かぁ」
「もう直ぐ七歳になるとよ。七絆の七っちママが言いよった! 」
「とよ? 」
その方言らしき語尾に鈴菜は戸惑いから、思わず聞き返していた。
150:名無しさん@おーぷん:2016/11/23(水)21:56:32 ID:RdQ
「ああ。こいつ博多生まれの博多育ちだったんだ。ちょっと前までね」
やはり直人が答えを返す。
「九州の博多かぁ。いいなぁ。お姉さんも行ってみたいな」
「よかとことよ。海も近かし、飛行場も近かとよ」
「へぇ、そうなんだ」
「あんた、なおとのかのじょね? 」
「え? 」
全く脈絡もなく問いかけられた七絆の問いかけに、鈴菜は言葉を失った。
「ばぁか。ただの幼馴染みだよ」
細い目を更に細くして直人が言い返す。
「なんね、幼馴染みね。つまらん」
つい先程までの天使の様な笑顔から一変し、妙に大人びた表情になった七絆が鈴菜へと言い放つ。
「つまらん? 」
呆気に取られた様に鈴菜がその言葉を繰り返した。
「つまらんってのは『つまらない』ってことさ」
「いや、それはわかるけど……」
尚も戸惑う鈴菜の前で、七絆がちょこんとその小さな首を傾げて鈴菜を見た。
「珍しくぁ
覆�とが女ば連れとるけん、てっきり彼女かと思うたとやけど違うとね。面白うなか」
「面白がるなよ」
淡々と語る七絆を、少しばかり照れながら直人が遮った。
「よかろうもん! 」
「よかろうもん? 」
即座に言い返した七絆の言葉に、今度は鈴菜が首を傾げていた。
153:名無しさん@おーぷん:2016/11/23(水)23:36:11 ID:kCR
何かに投稿してみたら?
俺読むよ
ありがとうございます。
ある程度書き進めたら推敲して
カクヨムに投稿してみます。
155:名無しさん@おーぷん:2016/11/24(木)00:35:54 ID:rrE
「気ば遣わんでよかとよ。ひとりぼっちには慣れとるけん」
その悲しい言葉とは裏腹な見上げる七絆の笑顔に、鈴菜は心の奥底を抉られたような衝撃に立ち止まってしまった。
ひとりぼっち。両親もいる。友達もいる。けれど、姉を失った時に感じた喪失感を通して見えて来た現実。
同じ目線でひとつの事を同じ様に笑えて、喧嘩出来て、何があっても繋がっていられる存在。その姉を失った時から、自分はひとりぼっちだった。でも、それに気付きながらも逃げていた。それを認めたら、何かが壊れてしまいそうで。
なのにこの七絆は、その小さな身体と心で精一杯受け止めている。鈴菜の心を抉りだしたのはその現実だった。
「ひとりぼっちって、おま……」
何事かを言おうとした直人の口を人差し指で塞ぎ、鈴菜は七絆を抱き上げて走り出した。
「変な人がいるから一緒に逃げるぞ~!」
「逃げろ~! 」
その突然の鈴菜の行動に一瞬戸惑いの表情を浮かべた七絆だったが、直ぐに同じ言葉を繰り返し、笑顔を取り戻していた。
!
$B!VC/$,JQ$J?M$@!*$*A0$i$NJ}$,$h$C$]$IJQ$@$m$&$,!* 」
訳も分からず、直人も二人の後を追って走り出す。
「大丈夫!お姉さんがついてるからね!ひとりぼっちじゃないから」
息を切らしながら零れ出た自らの言葉に、瞳の奥から熱いものが溢れ出そうになるのを鈴菜は堪えていた。姉の薺もきっと同じ事を、今の自分に言いたかったのかもしれない。それに気付き、鈴菜は心を覆っていた曇りが晴れて行くのに気付いていた。
「わけわからんけど、面白か! 」
満面の笑みで七絆がそう言った時、鈴菜が不意に走るのを止めて、追いかけて来る直人へと顔を向けた。
「ちょ……何やってんだよ」
「直人の家って、こっちだっけ? 」
「はぁ? 」
「なずなもわからんとよ」
「お前ら……一生迷っとけ」
鈴菜のバッグから着信音が響いたのはその時だった。その音に我に返った様に鈴菜は七絆を降ろし、スマートフォン取り出して耳へと当てた。
156:名無しさん@おーぷん:2016/12/03(土)20:53:00 ID:2QC
テスアゲ
157:名無しさん@おーぷん:2016/12/11(日)12:33:17 ID:ylt
テス
158:名無しさん@おーぷん:2016/12/18(日)18:19:44 ID:EKz
テス
159:名無しさん@おーぷん:2017/01/11(水)00:21:44 ID:gFc
どや
160:名無しさん@おーぷん:2017/01/19(木)09:51:25 ID:bHE
まだ死ぬな
161:名無しさん@おーぷん:2017/01/20(金)21:22:56 ID:osK
「お母さん、どうしたの? 」
どうやら電話の相手は母親らしい。鈴菜は相槌を打ちながら歩いて行く。直人へとチラリと目をやった後、七絆もその後を着いて行く。鈴菜とその母親の会話の中に、時折自らの名前が出ている事に若干の気まずさを感じながらも、仕方無しに直人も二人の後を追う。
「お母さんの病院にはいつ行くの? 」
スマートフォンを耳から離した鈴菜が振り向きざまに直人へと問いかけた。
「明日」
直人はぶっきらぼうに答える。
「明日だって……うん……」
直人の様子を気に留める事もせず、鈴菜は再び母親との会話へと戻っていた。
その鈴菜の周りを、何が楽しいのか七絆は後ろで手を組みただグルグルと回っている。
雲ひとつない青空から容赦なく地上を照らす初夏の太陽は、間も無く夕刻を迎える時間だというのに、その光は一向に衰える気配さえない。直人が少し汗ばんだ襟元を右手で拡げた時、ようやく鈴菜がスマートフォンを鞄へとしまった。
「お母さんが、これからうちにご飯食ぁ
戮砲�いでだって」
「はぁ? 」
丘野家の唐突な招待に、直人は思わずそんな声を上げていた。
「直人のお父さん、出張中でしょ? 」
「そりゃあ、そうだけどさ」
「七絆ちゃんのご飯、どうするの? 」
「コンビニで弁当でも買うさ」
「かわいそう」
「充分だろ」
「直人はそれでいいかもしれないけれど、七絆ちゃんは駄目」
そう言って鈴菜は側に立っていた七絆を抱き寄せた。
162:名無しさん@おーぷん:2017/01/20(金)21:54:39 ID:4K7
生きとったんかワレェ
なんとか生きてた(´Д` )
164:名無しさん@おーぷん:2017/01/23(月)22:37:05 ID:Rib
「てか、本当にいいのかよ」
鈴菜に抱き抱えられて目を丸くしている七絆を見ながら直人が問い返した。
「うちのお母さんがいいって言ってるんだからいいに決まってるでしょ」
「でもさぁ」
「七絆ちゃん、お姉さんとこでご飯食べよう」
「お姉ちゃんとこ行きたい」
「だよねぇ。行こ」
戸惑う直人を他所に、女同盟二人は歩き出す。
「勝手に決めんな」
「じゃあ七絆ちゃんだけ連れて行く」
「そんなわけには行かないだろ」
「なら決まりね」
これ以上の反論は無意味だと悟ったのか、直人は黙って二人の後を着いて歩き出していた。今日の昼に久しぶりに話したかと思えば、今は既に鈴菜に主導権を握られている。あの時、敬語を使うなと言った自分を悔やみつつ、直人の心は不思議な穏やかさも感じていた。
鈴菜と七絆の後ろ姿に幼い頃の自分と母親の姿を重ね合わせているのかもしれない。そう思った瞬間、同時に直人の中に大きな喪失感も湧き上がった。
もう戻�
らない日々。あれからどれだけの月日が流れたのだろう。その思いを打ち消すかのように、直人は無意識に二人から目を逸らしていた。その視線の先に広がる街並みの遥か向こうの空は、僅かに赤みを帯び始めていて、それが更に直人の心を締め付けた。
165:名無しさん@おーぷん:2017/01/23(月)23:06:34 ID:Rib
鈴菜に手を引かれた七絆が、覚えたての童謡を幾つか歌い終わった頃に、三人は鈴菜の家の前まで辿り着いていた。
閑静な住宅街は、それぞれの窓に灯をともし、その暖かくも淡い光が夕闇を一層暗く際立たせているように思えた。
「お父さん、帰って来てるみたい」
二階建ての家の前にある駐車場に停まる黒いセダンタイプの自動車を見て鈴菜が呟いた。
「本当にいいのかよ。お前んとこの親父さんて、確か厳しかったイメージあるんだけど」
「イメージじゃなくて本当に厳しいの」
「ダメじゃん」
「お父さん以上に厳しいのはお母さんなの」
「尚更ダメじゃん」
「そのお母さんがいいって言ってるんだから、大丈夫なんだって」
そう言った時には、既に鈴菜はインターホンのボタンを押していた。僅かに聞こえる呼び鈴に急かされるように、直人は肩に掛けていたバッグを降ろして直立不動の姿勢を取っていた。
「ただいまぁ」
「お帰りなさい」
インターホンのスピーカーから返っ�
てきた声はどこか弾んでいる様に聞こえた。それを証明するかのように、鈴菜がバッグから鍵を取り出す前に玄関の扉が内側から開けられた。
「まぁまぁ、いらっしゃい。疲れたでしょう。早くお上がりなさい」
166:名無しさん@おーぷん:2017/01/27(金)21:42:58 ID:WYe
満面の笑みで少し身を乗り出すようにして出迎えたのは、栗色に染めたベリーショートの髪が印象的な鈴菜の母であるエプロン姿の丘野 百合子であった。
その髪型のせいか、年齢よりはおそらく若く見えたのだろう。小学校以来、百合子と顔を合わせていなかった直人は一瞬だが戸惑いの表情を見せていた。
「お邪魔します」
「大変だったわね。とにかく上がって」
礼儀正しく頭を下げる直人へとそう声をかけた小百合は、鈴菜の傍らに立つ小さな女の子へと笑顔を向けた。
「あなたが直人君の妹さんね」
その問いかけに、七絆はコクリと頷いただけだった。その際、七絆によりギュッと握られた鈴菜の右手だけが、彼女の緊張を感じ取っていた。
「知らないおばさんでびっくりしたかな。さぁさぁ、お上がりなさい。正嗣さん、鈴菜が帰って来ましたよ」
奥の部屋にいるであろう鈴菜の父親へと呼びかけ、百合子は足早にキッチンへと一人歩いて行った。
その後を追うように、鈴菜に誘われた直人と七絆がダイニングへと向かうと、そこぁ
砲砲△襯董璽屮襪砲牢獷卜鼠�が並べられていた。
「ハンバーグ! 」
つい先程まで借りてきた猫の様に大人しかった七絆が歓喜の声を上げた。
「ハンバーグは好き? 」
「大好き! 」
「そう。良かったわ。やっぱり子供にはこれが一番ね」
外したエプロンを器用にたたみながら、キッチンカウンターの奥から百合子が七絆を覗き込んだ。
167:名無しさん@おーぷん:2017/01/27(金)21:45:18 ID:WYe
「賑やかだな」
低い声と共に、鈴菜達が入って来たドアから貫禄のある男が現れた。
少し角ばった顔に、これまた角ばった黒縁眼鏡を掛け、その下の口は横一文字に結ばれている。きっちりと七三に分けられた髪型も相まって、どう見ても真面目が服を着て立っているとしか言えない。
この男が鈴菜の父親である丘野 正嗣だ。直人も小学校の頃でさえ、この正嗣と顔を合わせた事は数少なく、顔さえうろ覚えだったが、何故かこの男の持つ独特の雰囲気だけは覚えていた。
「お……お招きありがとうございます」
その雰囲気に押されたのか、直人の声が強張っている。
「固くならなくてもいい。こちらが招いたんだ。子供は気を遣うもんじゃない」
そう言った正嗣は、ムスリとしたまま自らの席へと着いてしまった。その立ち振る舞いに、直人は助けを求める様にチラリと鈴菜へと視線を送る。それに対して鈴菜は苦笑いで答える。
「そこに座って。七絆ちゃんは私の隣ね」
鈴菜がそう言いつつ目の前にある椅子を引いた時、正察
未班換膸劼楼貊嵒従陲魘�張らせて鈴菜を見た。
「なずな……」
「こいつの名前、七絆って言うんです。数字の七に絆で『なずな』と呼びます」
百合子の呟きに二人の動揺を悟った直人が、すかさず妹の名前を明かした。
「七の絆で『なずな』ちゃんか……とっても素敵なお名前ね」
百合子の声は再び弾んでいた。しかし、正嗣の方は未だに動揺を隠せずに七絆を見つめていた。
168:名無しさん@おーぷん:2017/01/27(金)22:50:31 ID:WYe
こうなる事を直人は予想していた。だからこそ夕食の誘いに躊躇したのだ。だが、それは鈴菜も同じ筈だ。それなのに……その鈴菜は気に留める様子もなく、七絆をテーブルに着かせている。
「直人も座って。お母さん、私がご飯よそうね」
「そうね、お願い」
直人がキッチンに並び立つ母と娘を見ている間、七絆と正面に向かい合う形となった正嗣は、微妙な空気を変えるためか咳払いをひとつして夕刊を広げた。
「七絆ちゃんは幾つかね」
新聞に目を落としたまま不意に正嗣が訊ねた。
「六さい。でも、もうすぐ七さいになるとよ」
「とよ? 」
流石は親子だな。鈴菜と同じ反応をする正嗣に、直人はそう思った。
「こいつ、九州の博多産まれの博多育ちなんです」
そして同じ様に直人が言葉を添える。
「そうか」
正嗣は紙面から目を離す事なく、特に興味を示すわけでもなくそう言っただけだった。
「人と話しばする時は、ちゃんと目ば見て話さないかんてママぁ
�言いよったとよ」
勝気な性格なのか、七絆は語気を強めて正嗣へと言い放った。その言葉に正嗣も手にしていた新聞をテーブルの脇へと置いて七絆を見る。暫く見つめ合っていた二人だったが、その沈黙を先に破ったのは七絆の方だった。
「顔が怖かとよ」
「君が見ろと言ったんだろう」
その会話に、キッチンに立っていた母が噴き出していた。
169:名無しさん@おーぷん:2017/01/27(金)23:06:04 ID:WYe
「こら、七絆!失礼だろ」
直人が堪らず止めに入った。
「本当の事やもん。笑わんかったら、角に福が来んとよ」
「そうだよねぇ。ごめんね、七絆ちゃん。このおじさんは昔からこうなのよ」
笑いを堪えながら母もテーブルに着いた。
「余計な事は言わなくていい」
正嗣が少し不機嫌な顔になる。それが可笑しかったのか、母はついに声を上げて笑い出した。
「小さくても九州の女だな」
「そう言えば、こいつは博多の祭りの日の朝に産まれたって聞きました」
正嗣の味方をするつもりでもないだろうが、直人が答える。
「博多の祭り?誕生日はいつだね」
「七月十五日です」
「ああ、山笠か。あれは確か男の祭りじゃなかったかな」
「女山笠もあるとよ。子供山笠もあると」
正嗣と直人の会話に七絆が割って入った。
「とにかく、気の強い理由が分かった気がするよ」
「山笠があるけん博多たい」
会話にならぁ
覆け�酬に、直人もそこで言葉を止めた。
170:名無しさん@おーぷん:2017/01/27(金)23:20:44 ID:b4H
前作と比べてキャラ小出しだな
それとリアル重視
訳あって今はリアル進行中。
キャラはこれから怒涛の様に湧いてくるよ。
173:名無しさん@おーぷん:2017/02/06(月)22:56:28 ID:mbg
少しばかり遠慮がちに口元へと箸を運ぶ直人とは対照的に、七絆は豪快にハンバーグを頬張っている。その様を百合子は嬉しそうに見ながら、時折ティッシュで七絆の口の周りに付いたソースを拭き取っていた。
「お母さんの症状はどうなのかね? 」
「ただの過労だと思ったのですが、胃に問題があって……」
正嗣の問いに、そこまで答えた直人はちらりと七絆へと目をやった。
「その話しはまた後で聞こう」
直人のその視線の意図を悟ったのか、正嗣が申し訳なさそうに言った。百合子の無言の抗議たる視線も痛い。
居心地が悪くなったのだろう。食事を終えた正嗣は一人テレビの前のソファーへと向かい腰を降ろした。
「この人、好かん」
いつの間にか正嗣の少しばかり出て来た腹を背もたれにした七絆がそこにいた。彼女の言うこの人とは、テレビに映る政治家の男らしい。
「どうしてかね? 」
堂々と自分の膝の上に座っている七絆の横暴には触れず、正嗣は彼女に問いかけていた。
「?!
つきの顔ばしとるもん」
「成る程、確かにそうかもしれないが、それは仕方のない事かもしれない」
「嘘ばつかんと偉くなれんとね」
「たまには嘘も必要なんだよ」
「でも、おじちゃんは嘘つきの顔じゃなかとよ」
「当然だ」
おおよそ六歳児とお堅い国家公務員の会話とは思えない奇妙なやり取りを聞きながら、母は始終笑顔を絶やさなかった。
そしてその光景を鈴菜は嬉しく思っていた。思い返してみれば、姉が亡くなってからこれほど賑やかな時間を持つことは少なかったように思える。
自分が産まれる前の丘野家はこんな感じだったのだろうか?まるで自分だけがタイムスリップした様な気持ちにもなっていた。
元URL:http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1472558481/
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